原子質量単位系

原子核物理やプラズマ物理学では,原子質量単位系(atomic mass unit,a.m.u.,任意単位系,arbitrary unit,と略称は似ているがatomic mass unitの略で任意単位系とは全く関係がない)を良く使う.

単位系変換の基本としては,質量でkgの代わりにamu,エネルギーでJの代わりにeV(エレクトロンボルト)を使う.amuおよびeVの定義は次の通りである.

1 amu = 1.66\times10^{-27} kg
1 eV = 1.6\times10^{-19} J

amuは陽子一個あたりの質量を表し,エレクトロンボルトは単位電荷(一荷の電子)が1Vの電位差がある空間で受け取るエネルギーを表す.天下り的になるが,この単位系を用いたエネルギー保存の式は(ほぼ)次のようになる.

E [MeV] = \frac{1}{2}m [amu] v^{2} [cm/ns]

括弧内は単位を表し,Eはエネルギー,mは粒子の質量,vは粒子の速度をそれぞれ表す.
これを用いると粒子の運動が比較的容易に想像できるようになる.例えば,次の例題を考えてみる.

例題:0.025eVの熱中性子の速さはいくらか?

(中性子というのは周囲の媒質と平衡関係にある中性子のこと.中性子は持つエネルギーによって熱とか高速のようにラベル付けされるだけで,この問題を考える上ではあまり意味がない.)

答え:中性子と陽子の重さをほぼ等しいと見ると,例題の答えは次のようになる.

2.5\times10^{-8} (MeV) = \frac{1}{2}\times1 (amu)\times v^{2} (cm/ns)
\rightleftharpoons v^{2}=5.0\times 10^{-8} (cm/ns)
\therefore v=\sqrt{5}\times10^{-4} (cm/ns) \simeq 2200 (m/s)

こんな単位系を用いて何が嬉しいのか,と言えば電磁力が主要な力となる場合にものすごく計算が楽になる,という点が上げられる.例えば力F [N]を中心にエネルギー保存などを考えていくと,クーロンの法則から力を計算し,その計算した力をF=maにあてはめて計算し,更に計算した加速度から速度およびエネルギーを計算する,といった手順をふまなければいけないが原子単位系を用いればエネルギーの保存則経由で速度をすぐ出すことができる.

また電子や陽子の質量をわざわざkgで表したくねーよ,というときに使うと計算が簡単化されるかもしれないがおそらくもう少し混みいった事情もあるのだろう.

【おまけ】
『熱力学』(原島鮮)によると,15℃のときの分子の速度は,
H2:1888 m/s
He:1340 m/s
空気:498 m/s
Hg: 189 m/s
らしいので0.025eV(=2200 m/s)の中性子はだいたい室温程度か,と思うこともできる.