ラブコメクラスタの形成 ―思いの距離はいかほどか―

概要

最近、ソシオグラムというものを知ってしまい、面白いなぁ、と思うことしばし。
これは、親近性eijを定義すれば、それに沿った座標点が決定できる、というもの。*1
で、ふと思ったのが、「これ、ラブコメに適用できんかねー」ということ。
ので、ちょっとラブコメに適用してみようと思います。
(懐かしの注意書きですが、これは個人の趣味の範疇内でやっているため、数式の変形や導出に間違いがあっても特段責任は取れません。思考実験の一種として楽しんでいただければ幸いです。)


解析手法

対象iから対象jに対する親近性をe_{ij}と表すと、2つのサンプル間の親近性を空間の2点間のユークリッド距離で表すことができます。(なお、i=jの時、e_{ij}=0としています。)
一例ですが、親近性の大小とサンプル間の近さ/遠さの関係が次の式で表されるとしましょう。
Q=-\sum_{i}^{n}\sum_{j}^{n}{e_{ij}(x_i-x_j)^2}
するとこのQを平均が0,分散が一定の条件のもとに最大化すると、サンプルiに対して適切な座標x_iが定まります。すなわち、{\rm max} Qとなるx_iを求めればよいですが、その条件はQ^\ast=Q/\sigma_x\sigma_x標準偏差)とおくと、
\frac{\partial Q^\ast}{\partial x_i}=0
となります。
そして、数T_i=\sum_{j}^{n}{{(e}_{ij}+e_{ji})}S_{ij}=-(e_{ij}+e_{ji})を定義すると、式(2)を解くには以下の式を解けばよくなります。
 \left(\begin{matrix}T_1&S_{12}&\cdots&S_{1n}\\S_{21}&T_2&\cdots&S_{2n}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\S_{n1}&S_{n2}&\cdots&T_n\\\end{matrix}\right)\left(\begin{matrix}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\\\end{matrix}\right)=0


解析対象

うーん、どんなラブコメがえんじゃろーということで、私の数少ないラブコメ経験値の中から引っ張り出したのが次の仮想事例。
登場人物は主人公、ヒロインA,B、ライバル、モブさんの5名。筋書としては、第1話ではヒロインAは主人公がちょっと気になるもののそこまででも。
ただ、回を追うごとに、主人公にしか興味のないヒロインBも出てきて、さぁどうなることやら、的な何かで行きましょう。
頭に、うーん?あれかな?と思い浮かんだ貴方。それで正解です。正解はいつでも貴方の中にあるのです。
(ここでは便宜上、ヒロインと表記していますが、別に男女を限定するつもりはありませんので乙女ゲー的に考えても問題ないでしょう。ボブとアリスみたいなもんですね。)


用意するもの

ソシオグラムを書くにあたっては、親近性e_{ij}の表が必要となります。誰かさんから誰かさんへの好感度ですので、もちろん非対称です。
また、時系列に沿って数点あった方が面白いでしょう。推移が分かりやすくなります。
ので、脳内に思い浮かんだラブコメに沿って次のような仮想好感度表を準備します。

表1.仮想ラブコメの好感度表 第1話

表2.仮想ラブコメの好感度表 第10話


表3.仮想ラブコメの好感度表 最終話

表1−3には親近性e_{ij}が記載されていますが、これから分かるように、ヒロインAは徐々に主人公が気になっていくんですね。
一方でヒロインBは中盤から主人公に急接近。
で、その一方、級友さんとライバルは中々好機をつかむことができません。


さて、上記表からマトリクスを作ってみて、連立方程式を解いてみましょう。計算は大変なのでコンピュータに任せて、出てきた結果がこちら。


図1.計算結果

これだけだと何が何やら分かりませんので、もう少し分かりやすく数直線上に乗せてみましょう。


図2.数直線上のラブコメクラスタの形成


数直線で見ると、人と人との親近性が分かりますね。第1話ではそれほど気になっておらず、ヒロインBは主人公グループから遠い位置にあるのが、
10話から最終話にかけて一気にヒロインBと主人公が近づく様子が分かります。
そして、最終話で主人公がヒロインAとヒロインBの中間付近にくるんですけども、これが一般的に言う「ラブコメクラスタでしょうか。80年代の漫画とかで多そうな展開です。

一方で、主人公グループと離れて、級友とライバルがクラスタを形成している様子も分かります。俗にいう悪友が誰かとくっついた、というやつですね。U原とT中さんかが脳裏に浮かびましたが、彼らはどうなったんでしょうか。


結論

最終的に得られた数直線を見ると、脳内で描いていたラブコメそのものの展開を描いていて、なるほどなー、と。
距離を自分で恣意的に決めているわけではなく、非対称の数値を大体こうだろうなーと表に起こした結果から、固有ベクトルを求めた結果、確かに適切な座標を定めていた、というのは驚きです。
この手法の良いところは、二人の距離の概算だけでなく、n人の距離の概算ができるようになることでしょうか。
10人の青春物語でどうクラスタが形成されていったのか、ということが分かりやすく分析できます。

また、ラベル付き双方向グラフであれば何でも適用可能、というところで、多重次元で表すしかない表を少ない次元で表現できる、というところが良いと思います。
例えば、過去二十年間のセリーグパリーグ12球団同士の人的トレード数を親近性とみなすと面白い解析ができそうですが、誰かやってくれたりしませんかね…。