核融合炉の多様性

生物学的な戦略の一つとして,多様性を否定される人はほとんどおられないと思う.
我々は様々な種を作り,様々な環境に適応できるようにして生命の流れを作ってきた.
核融合装置にも当然そのような流れがあり,トカマク型というものがある.これは皆さんご存知のようにトーラス状をした磁場閉じ込め型核融合装置である.一方,ヘリカル型というものも存在し,これは外部コイルをうねうねと複雑な形状にすることで回転変換を生じさせる形式であり,主に日本において大きな発展を見せた.岐阜県にあるLHD,京都大学にあるヘリオトロンJやその前身であるヘリオトロンEなどは,1950年代に日本の科学者宇尾光治が発表したヘリオトロン配位の大成果と見ていいだろう.
こういった型の多様性がなぜ必要なのかと言えば,トカマク型ではブートストラップなどによりプラズマ電流の変化による回転変換が起こるため,危険な有理面の形成およびプラズマの崩壊に繋がるが,ヘリカルでは外部コイルで回転変換を行えるためプラズマ電流は必要ではなく閉じ込め性能の向上が見込まれるという所にある.
ではヘリカル型だけ開発を行えばいいではないか,というが世界の主要な装置はトカマク型であったし,DEMO炉であるITERもトカマク型である以上,トカマク型の研究を止めるわけにはいかない.
それに先に述べた多様性という趣旨から見ると,トカマク型だけ研究するのもヘリカル型だけ研究するのも,研究の結果どちらかがダメとなった場合に磁場閉じ込め型核融合装置の開発自体が頓挫してしまう.それは非常によろしくない,ということで両方の研究が進んでいるのである.
高校生時代の私は非常に浅はかだったので,なぜどちらか片方のみに傾注しないのか,などと考えていたが,多様性を許容できるレベルのうちは多様性を重んじた方がプロジェクトの成功率は上がるよねということに気付いていなかったのである.